5項目のラグビー憲章。ルールよりも大切な、守るべきもの

ラグビーは、ルールが複雑で、初めて観る方には理解しにくいことが多いと思います。実はプレーしている選手にとっても、まずはルールをしっかり覚えるのが大変な仕事です。ラグビーのルールは、『競技規則』として、WORLD RUGBYのホームページで見ることができますので、少しでも興味を持たれた方は、覗いてみてください。絵や写真を使って、分かりやすく説明してありますよ。

『競技規則』を見ると分かるのですが、ルールの説明の前に、『ラグビー憲章』というものが掲げられています。これは、ラグビーに関わる人が、ルールより先に、常に大切にしなければならない価値なのです。

5つの項目からなるラグビー憲章は、以下のようなものです。

ラグビー憲章 (World Rugby Charter)

1.品位 (Integrity)
2.情熱 (Passion)
3.結束 (Solidarity)
4.規律 (Discipline)
5.尊重 (Respect)

続いて、一つずつ見ていきましょう。

1.品位 (Integrity)

「品位とはゲームの構造の核を成すものであり、誠実さとフェアプレーによって生み出される」(ラグビー憲章)

『品位』は、英語のIntegrityの訳です。意味を調べると、「誠実、正直、高潔、品位」などと出てきます。ラグビーは、体をぶつけ合う激しいスポーツです。だからこそ、品位をある行動が試合の中でも求められ、普段の生活でもそれを心がけることが大切とされています。

ラグビーのタックルはただ思い切りぶつかり合っているように見えるかも知れませんが、お互いを怪我させないように気遣いながら、そのなかで最大限の力を出し合っています。タックルするプレーヤーは、相手に体当たりするのではなく、倒れる最後の瞬間まで、相手に腕を回して抱えています。また、万が一、思わぬ当たり方などをして相手が負傷してしまった場合には、敵味方関係なく、その選手に駆け寄り、声を掛けたりする場面はワールドカップの中継などでも見られたと思います。

2.情熱 (Passion)

ラグビーに関わる人々は、ゲームに対する情熱的な熱意を持っている。ラグビーは、興奮を呼び、愛着を誘い、グローバルなラグビーファミリーへの帰属意識を生む(ラグビー憲章)

ラグビーは、激しくぶつかり合い、怪我のリスクを伴うスポーツです。また、力を振り絞って走ったり押し合ったりする場面が継続する、きついスポーツです。しかし、厳しい練習や厳しい場面を乗り越えて、仲間と一緒に一つの目的を成し遂げようとする瞬間瞬間に、喜びを感じ、情熱が沸いてくるものです。

ラグビーの情熱、興奮を味わった人たちは、言語の壁を簡単に乗り越えて連帯を感じることができます。ワールドカップ2019日本大会でそれを味わった方は沢山いたことと思います。

もちろん、ワールドカップだけではありませんが、2023年には、現地でまたそれを味わいたいですね!

3.結束 (Solidarity)

ラグビーは、生涯続く友情、絆、チームワーク、そして、文化的、地理的、政治的、宗教的な相違を超えた忠誠心へとつながる一体的な精神をもたらす(ラグビー憲章)

結束とは、志を一つにするものが団結することです。一つのフィールドで15人対15人が戦うラグビーでは、それだけ結束力の差がものをいうスポーツです。

ワールドカップ2019では、日本代表には外国出身、外国籍の選手が多くいました。韓国、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、サモアの選手が一緒にプレーしました。これはなかなか他のスポーツでは考えられないかも知れませんが、日本に限ったことではなく、ラグビーにおいては、他の国々でも国籍を問わず、メンバーが構成されています。

これは、19世紀にイギリスが『大英帝国』として世界に植民地を持っていた時代からの考え方に基づいています。イギリス本国から、植民地の運営のために派遣された人々が、現地でもラグビーを楽しみ、現地のラグビー協会から代表として認められれば、その国の代表になっても良い、としたことが始まりです。イギリス発祥のスポーツならではの事情がありますね。

ただし、一度ある国の代表になった選手は、他の国の代表になることは禁じられています。ですので、日本代表として戦ってくれた選手たちは、母国に帰ってその国の代表になるという選択肢を捨てて、日本代表を選んでくれた、ということです。実際に、母国の代表からの誘いを断って日本代表に入ってくれた選手もいるようです。

日本代表に選ばれた外国出身の選手たちはまた、日本のスタイルを追求し、結束するために、日本の歴史なども一生懸命勉強するようです。試合前に歌う国歌も、歌う練習をし、歌詞の意味も勉強するそうです。そういった地道な努力もあって、『ONE TEAM』は成立したんですね。

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4.規律 (Discipline)

規律とはフィールドの内外においてゲームに不可欠なものであり、競技規則、競技に関する規定、そして、ラグビーのコアバリューを順守することによって表現される(ラグビー憲章)

規律は、決められたルールを守るということより意味が広く、行為の基準を自分たちで持ち、守っていく行動が求められるものです。異なるバックグラウンド、体格、スキルを持つ選手が集まるチームで、統制を保ち競争を楽しむためには、お互いに協力し、助けあうチームワークが必要です。それには、お互いが決めた約束を守り、信頼し合えなければなりません。

高校ラグビーの強豪、東海大仰星の湯浅監督は、「規律とは、ルールを守るということではなく、人間力を高めることだと思います。人間力の中には、目配り、気配り、心配り、思いやり、素直さ、謙虚さ、ひたむきさなどが含まれると思います」と言われていました。(『ラグビーが教えてくれること』村上晃一著)

これは、私なりに解釈すると、例えばみんなで一つの大きな矢印を作って進んでいこうというときに、一人一人がただ決められた方向に進んでいけばいいというものではなく、自分の周りにスピードが遅れている仲間はいないか、方向がずれてしまっている仲間がいないかよく観察し、そういう仲間がいれば声を掛けたり手を差し伸べたりする。また、自分にもどこか間違いはないかと謙虚に見直し続ける。そういう姿勢で取り組めるメンバーで構成されて初めて、大きな矢印が、規律のある、強い矢印になるということなのではないかと思います。

5.尊重 (Respect)

チームメイト、相手、マッチオフィシャル、そして、ゲームに参加する人を尊重することは、最も重要である(ラグビー憲章)

上の文で、マッチオフィシャルというのは、レフリー団のことを指します。ラグビーに参加する人それぞれの立場を大切に考える、ということです。

ラグビーは、さまざまな体格、性格の人にぴったりのポジションがあります。体重、身長、力、スピードの違いや、リーダータイプの性格、黙々と役割を全うするタイプ・・・それぞれが力を発揮できるようなポジションがあり、お互いの特性を尊重し、ゲームを楽しむ。ラグビーは、そんな価値を大切にしています。

ラグビーワールドカップ2019で優勝した南アフリカ代表のキャプテン、シヤ・コリシ選手は、南アフリカでは、貧しい黒人居住区の出身でしたが、南アフリカで初めての黒人のキャプテンとなり、チームを世界一に導きました。

南アフリカは、アパルトヘイト(人種隔離政策)で、白人による黒人差別が国の政策として行われていました。1991年にそれが撤廃され、ラグビーワールドカップにおいては、1995年の第3回大会で初めて参加が許され、南アフリカがホスト国となりました。南アフリカでは、長らくラグビーは白人だけが楽しむスポーツであったので、初めは黒人から応援されなかったのですが、1995年の大会では、黒人選手も1名含む南アフリカ代表が優勝し、国内の融和に一役買いました。これは、『インビクタス』という映画にも描かれた有名な話です。

ただ、いまだ人種間の経済格差は激しく、失業率、犯罪率の高さなど諸問題を抱える国内事情もある中、南アフリカが2019年に再び優勝したことは、意義深いものだったでしょう。コリシ選手はインタビューで、「祖国は実に多くの課題に直面しています。しかし南ア国民は私たちを応援してくれました。みんなに感謝します。祖国はいま本当にたくさんの問題を抱えています。それぞれ違うバックグラウンドを持つ人たち、異なる人種からなるチームがゴールを目指して一つになれました」と語っています。

今また、ラグビーに見られるような多様性を尊重し合う文化を共有し、様々な問題の解決に皆で向かっていければいいですね。

ラグビー憲章が教えてくれること

ラグビー憲章には、5項目の前に「はじめに」という文章があり、その中で、

「この憲章は、ラグビーというスポーツをプレーし、指導し、競技規則を作り、適用する際の基本原則を網羅している。この憲章は、競技規則とともに欠かすことのできない重要なものであり、すべてのレベルでプレーする人たちのための基準を示すものである」

としています。ラグビーでは、1990年代後半からのプロ化の進展に伴って、よりエキサイティングに、より安全に楽しめるよう、競技規則が変わり続けています。様々な反省や配慮の上に、現在の競技規則が成り立っていますが、規則を守ってさえいれば何をしてもいい、というわけではない、ということなのだと思います。

競技規則を守るのは当然ですが、それに込められた理念を理解、尊重し、試合の中でも外でも、ラグビーを愛する人間としてのあるべき姿を教えているのだと思います。

ラグビー
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